【サステナビリティ】スギ:広く遠くまで見通す“目”で、正解を探り続ける。“財宝”が秘める香りと可能性

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【サステナビリティ】スギ:広く遠くまで見通す“目”で、正解を探り続ける。“財宝”が秘める香りと可能性

第3回
サステナブル素材ストーリー

スギ:広く遠くまで見通す“目”で、正解を探り続ける。“財宝”が秘める香りと可能性

こんにちは、EarthRingです。

私たちは石川県・白山で、白山麓の水を使い、地域の樹木や植物などの自然の恵みから香りをつくっています。精油などの香り製品を作ることを通して、購入者の方々に心地よさを感じてもらうことはもちろん、地域に新たな収入源や生き甲斐を生んだり、森林保全のための一助となることを目指して取り組んでいます。

私たちが香りづくりに使う素材は、地元・白山市をはじめとした地域の生産者の方々によって手がけられたものばかり。「こんなものが余ってるんだけど」「何か香り商品にできないか?」……そうやって相談として持ち込まれた中で協業が始まり、試行錯誤を経て、今や私たちの定番商品になっているものもたくさんあります。

ここでは、そんな私たちEarthRingの香りづくりを支えている「素材」の背景、ストーリーについてお伝えしていきます。第3回は、「スギ」です。


お話を伺ったのは、EarthRingの蒸留所がある白山市の白峰地区で林業を営む白峰産業・尾田弘好さんです。

 


白峰産業・尾田弘好さん

日本三名山のひとつである霊峰・白山のふもと、手取ダムの上流で造林業等を営む白峰産業の専務取締役。森がこの先の世代にも受け継がれていくこと、そのために林業が持続可能な職業となることを願い、地元小学校での「木育」授業や他業種とのコラボレーションによるプロダクト開発など、木や山を知ってもらうための活動に積極的に関わる。長身コワモテ(?)ながら、一度会うと誰もがファンになってしまうお茶目なキャラクターとオープンマインドの持ち主。


白峰産業WEBサイト:https://shiramine.co.jp/


スギの香りの効能や特徴

「スギ」と聞いて、何を思い浮かべますか?


・・・もしかすると、花粉症のイメージが先行してしまって良い印象を持っていない方もいらっしゃるかもしれません。でも実はスギ(杉)は、昔からこの土地に根付いてきた日本固有の樹種。長い日本の風土の中で、歴史的にも文化的にも多くの恵みをもたらしてきてくれた頼れる存在なのです。

 

ここでは、そんなスギの魅力を少しだけご紹介しましょう。

 

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建材、道具、健康。スギは生活に欠かせない万能選手だった

杉は、学名では「Cryptomeria japonica」(クリプトメリア ヤポニカ)。正真正銘、日本固有の樹種なのです。「隠された日本の財産」とも訳すことができるこの樹木の力を、古来から人々は生活に活かしてきました。木材としてはもちろん、成分としても抗菌効果や免疫強化、抗ストレスなど多くの効能をもっています。


プラスチックなどの人工素材が登場する前、建物から身の回りの道具まで、すべては自然界にあるものでできていることが当たり前の時代。木材の中でも、とりわけ重宝されてきたのが杉の木です。

縦に割りやすく加工がしやすいことから、建材、桶、箱、箸など幅広い用途に使われてきました。抗菌効果があることを理解していた昔の人々は、酒だる・味噌だる・醤油だるなどの食品を保管する容器にも、杉を重用。檜などに比較すると香りが穏やかであるため、素材の味を活かす繊細な和食には、杉の箸が適しているとも。

また、樹皮は屋根葺材として、葉は線香や抹香の原料に。 薬用としては、若葉のつぶし汁や煎じた液を、疥癬(かいせん)や腫れもの、火傷、虫刺されに外用したり、服用して利尿に用いたりされてきました。また、スギ脂を和紙に伸ばし、肩こりや五十肩に貼付して用いられることもあったといいます。

幹から枝葉、樹皮や樹脂に至るまで1本が隅々まで活用されていたことは、それだけ、人々がスギにパワーを感じ、長い年月をかけて試行錯誤してきたということ。まさに、私たちの生活になくてはならない、万能選手といえる樹木だったのです。

 


花粉症の裏にある、日本の林業・森林のこれまで

もはや、今に至る日本の文化はスギの存在なくしては語れない、といっても過言ではない!


……のはずなのに、一転して今では花粉症の要因としてネガティブなイメージでスポットライトが当たることが増えてしまいました。


そうなってしまったのも、スギがそれだけ「使える」素材であるから。

 

戦中・戦後は全くの物資不足であり、資材、燃料としての過度の伐採で森林が荒廃。日本全国的にはげ山が広がり、台風などにより度々各地で甚大な災害が発生したといいます。

昭和35年の所得倍増計画、その後の高度成長期における薪炭材の需要の低下と、住宅建築などに伴う用材需要の増大。……そうした背景から、広葉樹を含んでいた天然林は人工林に変わっていきました。

 

 

戦後復興を急ぎ、成長が早く建築に使い勝手の良いスギの木を国策として植えた日本。結果として、現在では森林の約4割が人工林で、その人工林の約4割がスギだといいます。

木材として適切な太さまで成長をとげたスギの木は、きちんと伐採され、また使われるサイクルに乗ることが必要です。けれど、国外からの木材の流入、木材価格の低下、木に素材が替わる素材の登場と定着、住宅の中心が木造戸建てから鉄筋コンクリート造の団地など集合住宅に変わってきたことなど、時代の変化に伴い、適齢期を迎えても切られず、手入れもされないことが増え……結果、スギの木が全国的にも過剰な状態になり、花粉を大量に発生させることに繋がったといわれています。

 


重要なのは「切ったら植える」を繰り返すこと

「クロモジ」の記事でも触れたように、総面積の80%以上を森林が占める白山市も例外ではありません。林業が主要産業の一つであり、その対象の多くはスギの木です。


※参考:白山市森づくりプラン
https://www.city.hakusan.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/143/keikaku.pdf

 

「ではとにかく切ればいいではないか」というと、そう簡単にはいきません。人工林は木材資源であると同時に、地球温暖化の防止、水源のかん養(※)など、様々な機能を果たしているので、闇雲に切り倒してしまうとまた土地が荒れ、私たちの安心して暮らせる環境条件を危うくさせてしまいかねないのです。

 

※水源のかん養とは、森林が雨水を土壌に蓄え、ゆっくりと河川へ流すことで、洪水を緩和したり、渇水時でも川の流量を安定させる機能のこと。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/tamenteki/con_2_4.html

尾田さん:

「とったやつはまた植えて、を繰り返しやってるんやけど。そのバランスがおかしくなった時点で切られんくなってしまったというのが今の現状やから。(バランスがおかしくなった理由として)時代背景も、考えたらいろんな要素があるんよ。一生に1度は持ち家、とかっていう時代もあったがいね」

 

伐採したら、その分木を植える。これが、林業の基本の考え方。

尾田さんは、「それはその時代を生きていた人たちの知恵で、それがベストやろうと考えた結果」だと前置きした上で続けました。

尾田さん:

「切ったら植えるっていうのをずっと繰り返すことが一番大事なんやと。その周期ってのは、人間で言えば一番元気がある30代、40代みたいなのが、杉で言う60年とか70年ぐらいなんや。地域性があるからなんとも言えんけど、それを100年とか120年もほったらかしといたっていうのは、もう老木なんやわ。老木は老木なりの役割があるかもしれんけど、 水を吸い込んだりとか、CO2を吸収したりとか、根を張って地面を踏ん張ったりっていう力は絶対衰えとると思うんやて。

だから、人間とまったく同じで、70年とか若い時点で切ってしまって新しく更新していく、”山を若返らす”ことはやっぱり人工的にやっていくべき。それが今は後手後手になってしもうとるわけ。例えば集中豪雨でも、若い木やったら、今までぐっと踏ん張って山を守っとって、土砂崩れとかも踏ん張って我慢できたんかもしれんけど、年寄りの木やから、『ああもう無理』って倒れてしまう。……そういう可能性はゼロではないと思う」

 


老いたスギの木は“丸くなる”?

人間と同じように、身体的な機能はどうしても衰えていくのであれば、木にも老衰はあるんでしょうか? ……そんな素朴な疑問を投げかけたら、尾田さんは面白いことを教えてくれました。

尾田さん:

「老衰って言い方をしていいんかわからんけど、生き生きしとる杉の木だと、先っぽが尖(とんが)っとるわいね。成長しとるんや。何センチかでも絶対黄緑の部分の新しい年の色が変わっとるがいね。その分は成長量や。若干かもしれんけど。 尖ってれば絶対に成長してるんや」

尾田さん:

「(遠くの木を指差して)丸い杉あるやろ、頭まん丸になってる。見たらわかるんやけど、それはもう全然成長しとらん。もう種をつくっとるからね。子孫を残そうとして、種を作っとって、頭を丸くしとる杉の木って多々見られる。で、その木たちはもう本当に“おるだけ”やと、わしは思っとる。逆にどんだけ長生きでも、成長して生き生きしとる木は頭が伸びとるし、先が尖がっとる」

種の部分

なんだか、人間界にも当てはまりそうなお話です。この世界に存在するすべての命ある生き物には、時間の流れに伴うあらがいようのない変化と向き合い、新陳代謝していくことが課せられているということなのでしょうか……。

 


未利用部分のスギの枝葉に、価値を持たせる商品づくり

木を切る必要がある。

そのためには、木の需要を増やす必要がある。

そのためには、使わないといけない。


私たちがつくるスギの精油は、まさにそうした課題解決に直結するための商品として生まれました。

尾田さんの白峰産業から届けてもらった木材にならないスギの枝葉の部分を私たちEarthRingの方で蒸留。精油や蒸留水などの香りの製品に仕上げて、価値を与えています。

 


杉の枝葉は、そのままでは森林浴そのもののような青っぽい香り。それが、精油になると柑橘を思わせるような甘さも感じさせながら、すっと鼻が通るようなキリッとした香りが後に続く、そんな奥深い印象に変わります。まさに様々に活用されてきたスギの木そのものを表すような多面的な香りは、気持ちを穏やかに切り替えたい時に、そっと寄り添ってくれます。

 

 

今まで捨てていた部分から商品をつくり、収益を生む。健康な森林を持続させるために、切る→使う→植える→切る→使う→植える……そうした循環を生むための一つのソリューションです。

 


自分たちの手で植林や森林整備も行い、森づくりにも携わる

 

 木づかいプロジェクトを取り上げてもらった取材記事

サステナブルな観点でつくっている商品であっても、自然から恵みをいただくだけではいけない。自分たちも森林づくりに関わらないと。そう考えた私たちEarthRingが始めたのが、有志による様々な活動です。

その一つが、地元企業たちで集まって山を整備する「木づかい運動推進プロジェクト」。ボランティアでの植林イベントや寄付を2016年10月より展開してきました。私たちEarthRingも売上の一部を、この森林保全活動にあてています。年3回の活動で、草刈りと広葉樹のブナなどの植樹を行います。地味で地道ではあるけれど、意志あるボランティアたちで細く長く10年以上にわたり続けてきました。現在は、一般社団法人ウッドキャストとして、活動を継続しています。

 

 木づかいプロジェクトを取り上げてもらった取材記事

とはいえ、成長に何十年もかかる森林を守り未来に継いでいくためには、何よりも子どもたちへの教育が必要だ。そう考えた結果、近年では、地域の小学校で有志たちによる木育の特別授業も始めています。授業では、実際に木を切ってもらって、コースターをつくる体験を用意。木は直前に切ったものを使い、切った後に中の水分が抜けて木が変化していく過程を見てほしいという意図があります。

尾田さん:

「前の日まで立って生きとるやつをわざわざ前の日から2日前に切る。そうすると、水分があるやつをあげんねん。乾燥したやつをやったって、なんも変わらんげんて。長い時間の間に、割れたりとかして、水分が抜けてく状態で様子が変わるんよ。それを見てほしい」

取材時にはつい数日前に子どもたちへの授業をした時に残ったスギの木が。まだ十分新鮮で生き生きしているように見えるがこれでもかなり変化しているそうだ

 

「正解」がわかるのは何十年後。子どもたちに未来を託す

子どもたちに林業や森林について伝えることに、とても熱心な様子の尾田さん。というのも、林業は自分たちの代で終わることを前提としていない、とてもとても長いスパンでの商いだから。今一生懸命植えたとしても、それが木材になるのは60年後。そしてそれをきちんと切り、新しく植樹する。そうしたサイクルが回らないと、老人の木たちばかりになって、環境が保てなくなってしまう。だからこそ、次の世代にそのサイクルを回すことの必要性を伝えて、手渡していかなくてはないない。今、自分たちの世代が頑張るだけでは、どうにもならないのです。

木育の授業で、尾田さんが必ず子どもたちに尋ねることがあるといいます。

尾田さん:

「『わしらこの間、木を植えてきたんやけど、そうすると次に切るのはいつになる?』って聞く。そうすると、『60年先です』って子どもたちはみんな答える。で、『その時、私はこの世におると思いますか?』って。こないだ植えた木を、次に自分が切れるかというと、無理。それだけスパンが長い、一生に1回しかないことなんや。そういうことを、子どもたちに伝えている」

 

今、花粉症対策で、国が杉林に対して率先しているのが、「皆伐」です。森林が密集しすぎないように、間を間引くようにして木を切り倒していく「間伐」に対して、その一帯をすべて切り倒してしまうのが、「皆伐」。照度調整とか 不良木(ふりょうぼく)を切っていい木を育てるために行われる間伐に対して、皆伐はスギの木を一度に大量に減らすことができます。皆伐して針葉樹を減らし、広葉樹に植え替える。これを推進するために、皆伐に対しては補助金が出ています。でも、これすらも「正解」なのか、確証はありません。

尾田さん:

「農業やったら大体長くても3年とか、早ければ単年度で結果が出るがいね。今年は、トマトが赤くならなかった。来年はこうしてみよう、肥やしを変えてみよう、という感じで4〜5年すればある程度の成果が出る。でも、林業だと60年のスパンでの話になる。我々が今、皆伐しているのは60年前に植えた人たちの木を切っとるんやから」

 


1ビジネス単体・土地単体で考えずに、エリア全域での“正解”を

いまの時代、手のひらに乗る小さなサイズの画面ごしに、欲しい答えは瞬時に手に入ります。そして、その画面では一瞬で心を掴んで離さなくさせるような瞬発的なコンテンツが日々膨大な量で展開されています。

そんな情報化社会のスピード感に反して、林業が抱える課題、ひいては地球に生きる私たち皆に関わる環境保全の問題は、長い目で見て広く捉える意義を私たちに問いかけているようです。

 

尾田さん:

「(山には地主がいて、所有者が分かれていたとしても)結局、自然やもん。みんな人に影響を与える自然っていう捉え方、広域的な捉え方をしたら、やっぱり個別に対処するのではなくて、大きなエリア全体でみて『いいね』という状態にしないといけない。ちょこちょこっと何かをやったとしても、そんなもん猫の額(ひたい)じゃないけど、(効果は)知れとるがいね」

林業を難しくさせるのは、途方もない時間軸だけではありません。都市部で暮らす人の方がずっと多いこの時代に、普通の暮らしであまり触れることのない世界であることが、また状況を難しくしています。だからこそ、閉じずに広く情報を共有して、担い手になる人に届けばと、尾田さんは話します。

 

尾田さん:

「林業っていうものは衰退しとるし、マイナー。知ってる人しか知らないんがいね。だから、とにかく全国に発信したい。すごく地域性があるから、情報としての需要もまったく違うかもしれんけど、木材にするために木を切るという”本業”をやりながら、精油のような商品化もできる。木を切ることだけが収益源じゃないと知って、担い手が来てくれれば、林業がもっともっと進んでいったり、メジャーになってくるんかなって。林業を発信することが一番の目的。うち(白峰産業)がどうとか、白峰がどうとかっていうのはもう二の次で、 それを模索しとるような状況やね」

 

自分一人では、企業一つでは、地域一つでは成り立たない自然環境保全。その解決策のための模索はまだまだ道なかば。むしろ、終わりがありません。

 

長い長い付き合いを続けてきた、日本人と杉/スギ。

日本語で杉にまつわる言葉は、100を超えるといいます。その付き合いの長さや関係値の深さを象徴するようです。

 ◯料理名に関する語・・・杉板焼、杉重、杉原餅、杉焼
 ◯神社・仏閣に関する語・・・杉の標、杉御社、杉本寺、杉社、神杉
 ◯生活道具に関する語・・・杉扇、杉唐櫃、杉下駄、杉手桶、杉櫃、杉目扇、杉樽、杉桶
 ◯織物に関する語・・・杉綾、杉綾織、杉錦
 ◯算術に関する語・・・杉算
 ◯武道・戦術に関する語・・・杉材棒、杉形鞘、杉形
 ◯葬祭に関する語・・・杉団子、杉仏

(『ものと人間の文化史 杉Ⅰ』有岡利幸 著,法政大学出版局 より一部抜粋)

 

私たちが改めてこの樹に向き合い、その力をどう地球に活かすのか、今の時代だからこそできる付き合い方を深く考え実践を重ね続けた時、また新たな“杉用語”が生まれるのかもしれない。その時きっと、私たちの暮らしもまた少し変わっているのかもーースギには、そんな大いなる可能性を感じさせる何かがあるように思います。

 

 

ここまでみてきたように、大事なのはバランスです。より良い付き合い方を模索し続ける私たちの旅は、まだまだ続きます。





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取材・撮影執筆:吉澤 志保


地方好き・移動好きの編集ライター。地域の活性化に関わる仕事に興味があり、取材を重ねるうちに人や地域の繋がりこそが大切だと考えるように。ただ書いたり撮ったりするだけでなく、誰かの思いや活動を伝える仕事を通して、対象となる人や場所との関係性を築きたいし、新しい価値を生み出したいと思っている。